2015年11月5日木曜日

荒川のハクガン

東京都(足立区)に58年ぶりにハクガンが飛来したことがニュースになっています。でも、人や犬が近寄っても逃げなかったという情報もあり、個人的には野生とするにはどうも怪しい気がします。少し前にやってきた彩湖のマガンも警戒心が薄かったとのことですから、なおさらです。これは野生生物を観察している人間からすると、実に不自然です。佐渡に年中いるオオヒシクイやマガンも然りです。

近年、日本の主な飛来地から外れた場所に飛来するツルやガンのなかに人をまったく警戒しない個体や群れが見られることが増えている気がしており、海外で人目に触れない状態で大型鳥類を飼育している人がいるのではないかと勘ぐってしまいます。

個人で飼育している人ならば、足環もしないでしょう。犬が近くを通っても逃げないのは、雛のころからそばに親鳥を襲わない犬がいたと考えると合点がいきます。飼育している鳥たちが飼育施設の周辺にいる野生生物に襲われないように番犬がいて、しかも飼育されている鳥を襲わないように犬が訓練されていれば、飼育鳥類が野外に飛んでいったときにも犬を怖がることはないでしょう。

最終的な記録の扱いは山階鳥類研究所や日本野鳥の会にもちろん委ねますが、個人的にはきちんと海外の飼育情報収集をしてこの類いの記録の扱いは慎重にしたほうがよいと思っています。

ハクガンの場合、日本雁を保護する会とロシアの共同で行なった北東アジアのハクガン個体群復元計画によって、日本の空にハクガンが群れで飛来しつつありますので、その一部ではないか?と思う方もいるでしょう。

しかし、この事業によって増え始めたとされる日本に飛来するハクガンは、渡り途中の道内(十勝など)や 越冬地(秋田など)では非常に警戒心が強い(200m程度離れないと警戒する)と聞いています。

この日露共同のハクガン復元計画で個体群復活のための卵の移送などは1993年しか行なわれていないため、現在は野生化で繁殖していることは間違いないものと思われます。ちなみに、2007年以降に飛来数が増え、2012年度は91羽中48羽が幼鳥だったそうです(雁の里親友の会発行 雁の友No.48より)。

日露共同ハクガン復元計画
http://homepage3.nifty.com/shibalabo/top/2-1/2-1-2/ac.htm

この事業によるハクガンも人の手が加わっているから純粋に「野生ではない」と言われれば、確かに今の日本に、人の手が加わっていない野生のハクガンは「いない」のかもしれません。しかし、すでに人の手を離れて渡りもしていることから、犬を怖がらない鳥がいるとは思えません。

以上のことから、おそらく今回荒川に現れた3羽のハクガンは、復元計画の群れとは違うルートで日本に来たと感じており、記録をするには熟慮する必要性を感じています。

11月25日追記
柴田佳秀さんが都市鳥類研究会の掲示板で、この警戒心が薄いハクガンは幼鳥である点を考慮されて、野生個体であるとおっしゃられています。
http://6927.teacup.com/urbanbirds/bbs/76

12月25日追記
松田道生さんも、DIGISCO.COMのコラムで、荒川のハクガンは野生個体との見解をしめされています。ハクガンを飼育している施設の少なさ、幼鳥が3羽同時に逃がすことの可能性の低さを指摘されています。
http://www.digisco.com/mm/dt_90/toku1.htm

野鳥への見識の高いお二人の貴重な見解は、若輩者にはたいへん勉強になります。このような文章をウェブで拝読できるという、贅沢な世の中に感謝です。

もう1人、紹介したいブログがあります。今回のハクガンの飛来について述べている青年。心にズシッときました。
http://takabirds.exblog.jp/25100496/

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